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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)4784号 判決

原告

篤田作一

被告

中西勇

ほか二名

主文

一、被告中西勇、同上野徳三郎は各自原告に対し、金一、五七四、七八七円およびこれに対する昭和四二年一二月一日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告の右被告両名に対するその余の請求および被告大阪砕石工業株式会社に対する請求はいずれも棄却する。

三、訴訟費用は、原告と被告中西勇、同上野徳三郎との間に生じたものは五分して、その三を原告の、その余を右被告両名の負担とし、原告と被告大阪砕石工業株式会社との間に生じたものは原告の負担とする。

四、この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。

五、ただし、被告中西、同上野が原告に対し、各金一一〇万円の担保を供するときは、それぞれの右仮執行を免れることができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

被告らは、各自原告に対し、金三、七九九、六八二円およびこれに対する昭和四二年一二月一日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告ら

請求棄却。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

一、原告、請求原因

(一)  本件事故の発生

日時 昭和四二年三月一六日午後二時四〇分ごろ

場所 西宮市能登町一〇三番地先国道一七一号線上

事故車 普通貨物自動車(神一り三八〇五号)

運転者 訴外寺迫利広

態様 原告は小型乗用自動車に乗つて信号まちのため停車していたところ、その後方に訴外玉岡通男運転の乗用自動車も停車していたが、事故車が後方から進行して来て、右玉岡の自動車に追突し、同車を原告の自動車に追突せしめた。

受傷 原告はむち打ち症、腰部打撲の傷害をうけた。

(二)  帰責事由(自賠法三条)

被告中西は事故車の保有者で、被告上野と共に被告会社に対して、同社との間に締結された専属的運送契約により事故車を提供し、運転手を雇用して、同社の運送業務に従事していた。なお、被告会社は、事故車について安田火災海上保険相互会社との間に保険金額五〇〇万円の対人賠償保険契約を締結している。従つて、被告らはいずれも事故車を自己のための運行の用に供していたものであり、本件事故から生じた原告の損害を賠償する義務がある。

(三)  損害

1 治療費 金一〇六、四〇〇円

渡辺病院分 金一〇二、〇一〇円

宮川病院分 金四、三九〇円

2 通院交通費 金二〇、一八〇円

渡辺病院分 金一八、八四〇円

宮川病院分 金一、三四〇円

3 付添費 金二万円

原告が入院して最初の二〇日間、妻の妹の池脇和子に付添つてもらつた費用。

4 逸失利益 金二、一七九、六八二円

原告は事故当時呉服生地の加工または販売をしていて、月収金一〇万円を下らないが、本件事故による受傷のため、昭和四二年三月一七日から同年一一月末まで休業し、さらにその後は後遺症による営業活動の低下、顧客の喪失等により、当初一年間は事故前の収入に比較して三割を下らない減収を、さらに続く五年間は少くとも二割を下らない減収が予想される。そこで逸失利益を算出すると、合計金二、一七九、六八二円

(1) 休業損は、

(2) 六年間の二割減収分 100,000×12×0.2×5.13360118=1,232,064

(3) 最初の一年の一割減収分 100,000×12×0.1×0.95238095=114,285

5 慰藉料 金一五〇万円

原告は、本件事故のため長期にわたり苦しい療養生活を余儀なくされ、現在でも後遺症が残存し、生業に重大な障害となり、生活に困窮した。そのうえ原告の妻が骨盤腹膜炎にて入院して帰宅療養を始めた矢先に本件事故が発生し、そのため妻の病状が悪化した。原告はこれらの事情から前途に対する不安等のためノイローゼとなり、事故後熟睡できず、絶えず焦燥感をいだいている。この精神的、肉体的苦痛に対する損害として金一五〇万円が相当である。

6 弁護士費用 金二〇万円

(四)  原告の受傷に対する自賠保険金として金五〇万円が支払われているが、そのうち本訴請求分は渡辺病院の治療費等として金一六三、四五九円を原告が受領しているので、これを控除すると損害額は金三、八六二、八〇三円となるがその内金請求する。

(五)  よつて、原告は被告らに対して第一の一、記載のとおりの金員を請求する。

二、被告ら

(一)  請求原因に対する答弁

本件事故の発生は受傷の点が不知のほかすべて認める。

帰責事由中、被告中西が事故車を保有すること、被告会社が原告主張の保険契約を締結していることは認めるが、その余を否認する。

損害のうち、原告がその主張の病院で治療をうけていたことは認めるがその余をすべて争う。

(二)  被告会社および被告上野の非運行者の主張

1 被告会社は事故車の運行、管理に無関係で、被告会社の宝塚工場において、被告中西に砕石を継続的に売り渡していたに過ぎない。ところで、右砕石の売渡をうける者が相当多数になる関係で、これらの者が砕石運搬に使用していた事故車を含む貨物自動車につき、保有者ごとに各別に任意保険(対人賠償保険)を締結することが煩雑であるため、被告会社名義で一括して右保険契約をしていた。そして、保険料の支払は、被告中西ら個人で負担していたのであるから、保険契約者名義をとらえて被告会社が運行者とすることはできない。

2 被告上野は、被告中西のため事故車の管理等を代行していたが、単なる代理人であるから、事故車の運行供用者ではない。

第三、証拠〔略〕

理由

一、本件事故の発生は、原告の受傷を除き当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によると、原告は本件事故のため腰部打撲、むち打症の傷害をうけたことが認められる。

二、被告中西、同上野の責任

事故車が被告中西の保有していることは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によると次の事実が認められる。被告中西と被告上野とは、親しい間柄の同業者で、被告会社宝塚工場から砕石を購入して販売するなどしていた。被告中西は事故車のほかにも車両を持つていたが、事故車について自動車運転手の適当な者がみつからず、事故車を被告上野のところへ持ちこんで、同人に使用を任かせて、その利益をうけるべく話しができ、被告中西が車を提供し、被告上野が運転手、その他車の運転につき面倒をみることになり、そこで上野は、運転手の寺迫を雇い事故車を主として自己の埋立の仕事などに使用していた。被告上野は、事故車を運行させて得た利益から、被告中西が負担している車の月賦代、手数料、同人の利益も考えて、被告中西に毎月一一万円余の支払をしていた。事故車には、車体に中西商店の名がついており、使用しないときの保管は被告中西方のガレージか、訴外寺迫が自宅に持ち帰つていた。また被告中西が寺迫に仕事について指示することもあつた。前掲証拠中、右認定に反する〔証拠略〕は措信できず、他に右認定を動かしうる証拠はない。右認定事実によると、被告中西は、事故車については被告上野と共同して自己のための運行に供していたものである。すなわち、被告中西は事故車の運行による利益は当然うけており、被告上野を通じて使用される目的も十分了解しており、外部には被告中西の車両として表示し、保管についても考慮していたことや、被告上野との契約に期限が付されてないこと、同人から受領する金額が賃料でもないことから、考えて共同事業といえる形態と推認でき、被告上野を通じての運行支配がなされていたと認められるからである。

一方、被告上野については、事故車を直接運行支配し、かつその運行による利益を享受していたことを十分認定できるので、両被告とも自賠法三条により本件事故から生じた原告の後記損害を賠償すべき義務がある。

三、被告会社の責任の有無

被告会社が、事故車につき安田火災海上保険相互会社との間に対人賠償保険契約を締結していることは当事者間に争いがない。また〔証拠略〕によると、被告上野は被告会社宝塚工場内に同社から事務所を借りうけ、電話をひき、運転手などの休憩所にも利用していること、事故車のほか被告会社に常に出入している砕石販売業者所有の車両につき、被告会社名で右保険の加入をしていること、被告上野が新しいダンプカーを購入するときには被告会社で保証してもらつたことがあること、被告会社の配車係員から被告上野の事務所に電話がかかつてくることがあつたことなどが認められる。しかしそれ以上に被告会社が被告上野あるいは被告中西との間に専属的運送契約があり、または事故車を被告会社でチヤーターし、同社の配車係が運行の指図をしていたと認められる証拠がなく、被告会社が事故車の保険契約名義人となつていても運行供用者であると認めることはできない。従つて、被告会社は本件事故について自賠法三条による賠償責任はない。

四、損害

原告は、本件事故による受傷により事故後直ちに西宮市の渡辺病院に入院し、昭和四二年六月一四日ごろ退院し、その後翌四三年四月二七日まで通院して(実治療日数二六日)治療をうけ、さらに自宅療養を続け、同年五月二七日から昭和四四年一〇月二八日まで豊中市の宮川病院へ通院し(実日数四一日)、後遺症として項部硬直感、右中指の屈曲について局所痛を残している。しかし、昭和四三年一月ごろからは仕事をはじめており、症状はすでに固定したものと診断されている。

(〔証拠略〕)

1  治療費 合計金一〇六、四〇〇円

渡辺病院分 金一〇二、〇一〇円

宮川病院分 金四、三九〇円

(〔証拠略〕)

2  通院交通費 合計金二〇、一八〇円

渡辺病院分 金一八、八四〇円

宮川病院分 金一、三四〇円

(〔証拠略〕)

3  付添費 金二万円

原告は入院当初、両上肢、上胸部のしびれ、呼吸困難、頸部運動障害等があり、少くとも一か月程度の付添を必要としたものと認められ、(〔証拠略〕)原告の妻の妹池垣和子が右期間付添をした。(〔証拠略〕)

そこで、一日金一、〇〇〇円の割合により二〇日分の付添費を原告の損害と認める。

4  逸失利益 金七五一、六六六円

(原告の収入について、)

原告は呉服の外商で、白生地、ちりめんを仕入れて、注文により染、仕立などの加工にも出し、小売していたものである。

一般に呉服小売商人の売上利益は仕入額に対して三割以上であつて、純利益はこれから諸経費を控除するのである。原告の場合、昭和四一年九月から昭和四二年二月までの生地の仕入、染加工などの取引額は、(同一期間内でなければ平均的取引額が分からないからこれを算出するため合計額を計算する。)合計金一、七一九、六八〇円(〔証拠略〕)であり、平均月金二八六、六一三円となる。これに対して、電話料月平均二、二〇五円、ガソリン代月平均九、五八九円のほか自動車の費用等(金六、〇〇〇円)が経費としてかかる。原告には貯金はなく、商売の利益で家族(妻、一七才と一三才の子二人)を養い、資産として以前に建てた家屋と小型自動車を有していた。(〔証拠略〕)

そうすると、原告の売上利益は、仕入額の三割とすると月平均八五、九八五円となり、これから前記経費を自動車の費用等として金六、〇〇〇円は原告が自認している。もつとも原告本人尋問の結果では、取引額月四〇万円程度あつたと述べているが、右取引額は呉服商の秋、冬の期間における平均を求めており、かりにこれ以上の取引があつたとしても取引の少いと考えられる夏の期間を加えて平均額を求めると右認定の平均額を超えずむしろ低いのでないかと推測され、原告の経済状態からもこれを肯認できる。従つて、逸失利益の計算の基礎として、原告の月額収入を控えめに金六五、〇〇〇円とする。

(1)  そこで、前記のとおり原告は事故後昭和四二年一一月末までは働くことができなかつたので、八か月三分の一の休業損は、

金六五、〇〇〇×八、三三三三三 五四一、六六六円

となる。

さらに、原告は、その後も後遺症があつて、商売に影響し、昭和四三年一月以降取引額も従前より減少したこと、現在では自動車の運転もしているが、雨天の際の頭痛等自覚症状を訴えている。原告の症状は、昭和四三年一〇月ごろから余り変化なく、昭和四四年一〇月二八日には症状固定治ゆ、労災障害等級一四級の後遺症ありとの診断がなされている。

(〔証拠略〕)

そこで、昭和四二年一二月以降二か年間稼働に影響があつたものと認め、(その後は慰藉料算定の際考慮する。)当初はその影響が大きく期間の経過により漸次減少して来るが、通じて一五パーセントの減収あるものとして計算することにすると、

(2)  六五、〇〇〇×一二か月×一、八六一四×〇、一五二一万円

(一万円未満切捨)となる。

5  慰藉料 金七〇万円

前記原告の受傷程度、治療経過、後遺症、本件事故の際の状況等のほか、本件事故当時原告の妻が骨盤腹膜炎で豊中病院から退院して一〇日後のことで、まだ妻も療養中であり、原告の休業により生活費に窮し、親戚から借金していたこと(〔証拠略〕)から本人はもとより家族に与えた打撃も大きく、これら諸般の事情を考慮して、原告の精神的、肉体的苦痛に対する損害を金銭に見積ると金七〇万円が相当である。

五、損益相殺等

原告は、自賠保険金のうち本訴請求分として、治療費等として金一六三、四五九円を受領したことを自認している。

なお、本件は過失相殺すべき事案でない。

六、弁護士費用 金一四万円

原告は被告上野、同中西に対し四の損害合計額から右損益相殺すべき金額を控除した金一、四三四、七八七円の損害賠償請求権を有しているところ、右被告らがこれを任意に弁済しないこと、原告が本訴々訟代理人らに報酬等の支払義務を負つていることは〔証拠略〕から明らかである。そこで右認容額、事案の難易から勘案して、弁護士費用として金一四万円を本件事故と因果関係のある原告の損害と認める。

七、結論

よつて、原告が被告上野、同中西に対して、金一、五七四、七八七円およびこれに対する本訴状送達後の昭和四二年一二月一日から右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、右被告らに対するその余の請求および被告会社に対する請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行および同免脱の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤本清)

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